あなたにいつまでも「大丈夫だよ」と言われたい
「大丈夫だよ」って言ってくれた
あなたの声が聞こえたから
1人じゃ何もできないけど
やっとここまで歩いて来れた
目まぐるしく人の行き交う駅前、キーボードとその身だけを携えて歌っていた彼女は、夢の後ろ姿を捉えることができず、週末の喧噪のただ中で独りだった。
周囲の知人友人達がないまぜになって社会に溶け出して、大人になって、暮らしを手中に収めていく中で「自分は一体何をしているのだろう」という焦燥が、今日もジリリと空の手のひらを焼いていく。
そんな宙ぶらりんな生活の中、彼女が自分を確かめられる唯一の居場所は名前の書いてあるバイト先の"タイムカード"だけ。夢を夢と呼ぶことさえ躊躇われる後ろめたい夜に、タイムカードが打刻する無味で簡素なルーティンだけが、彼女と「奥華子」を繫ぎ止める楔になっていた。「もう諦めてしまおうか」と、自分も周囲の大勢にならい生きていこうかと、何度も孤独と不安に押しつぶされそうになった、そんな時。
「大丈夫だよ」と言ってくれた人がいた。自分を見て、声をかけてくれる人がいた。
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別に、更新が滞っていた期間で社会に殴られ過ぎてリリシズムへの傾倒がいよいよもって佳境を迎えているだとか、深夜2時半のツイッターの下書きを誤ってブログにコピー&ペーストしてしまった......だとか、そういった意図で冒頭から脈絡なく奥華子の名曲「タイムカード」のサビ部分を引用し、あまつさえそのバックストーリーを紐解いているわけではありません。大丈夫です。
そう、私はただ「大丈夫だよ」について話がしたい。
皆さんは今、大丈夫ですか?近々に対する焦燥、明日への不安と、それよりももっと先、見えない未来への憂慮。日々は、人生は、全然大丈夫じゃないことばかりです。
自分も全くやってないソーシャルゲームに惰性で2万円を入れてしまい、自分の中に確かに息づく"手癖"の「大丈夫じゃなさ」に驚愕しています。
畢竟、私たちはままならない日々をそれでもなんとか周回し続けているだけで、完全に大丈夫だったことなど一度たりともありませんし、いつだってできることなら大丈夫になりたいです。
閑話休題。今日は実際に大丈夫か、大丈夫じゃないかではなくただ人から人に伝えられる言葉としての「大丈夫」について話したいのです。
絶対、大丈夫
ところで、皆さんは今年のプロ野球、セントラル・リーグの覇者がどこの球団だか知っていますか?そう、東京六大学野球が聖地、明治神宮球場を本拠地とする東京ヤクルトスワローズです。2年連続最下位からの実に6年ぶりのリーグ制覇。高津政権下で見事に再建された先発、中継ぎ陣と助っ人加入で厚みの増したリーグ屈指の強力打線が見事に噛み合い熾烈な首位争いを制しました。
本当に良かった......。マジで。奥川も村上も皆ようやった!!!!!
いや......こいつなんでいきなり野球の話を始めたんだ?と思った皆さん。
安心してください、ここからなんとか本筋へと繋げます。繋がります。そもそも、今回の記事を書こうと思ったきっかけの半分はスワローズの優勝にあります。
時は2021年9月7日、前カードでカープに2連敗を喫した3位スワローズは2位タイガースとの3連戦の為、不退転の覚悟で甲子園に遠征。この絶対に負けられない試合を前にした全体ミーティングにて、高津臣吾監督が選手たちに語った言葉こそ、ヤクルトスワローズを今回の記事の本筋へと合流させるのです。
(中略)
~そして、もうひとつ。「絶対大丈夫」だから。
その大丈夫って根拠は、君たちが自分のことを理解して、君たちが周りのチームメイト、チームスワローズをしっかり理解したら絶対に崩れない。
これから10連戦やもっともっと大事なビッグゲームが待っているけども、自分のことを理解して、自分の足元をしっかり見つめて、周りのチームメイトを信じ、このチームスワローズという一枚岩でいったら絶対に崩れることはない。
絶対大丈夫。何かあったら、僕が出ていくから。何かあったら僕に相談してください、何かあったらコーチに相談してください。
これが、チームスワローズ。これで今年ずっと闘う。去年の反省を活かし今年どうやって闘うか、去年の悔しい思いを今年どうやって晴らすか、それをずっとやってきたのがチームスワローズ。皆自信を持ってください。
絶対、大丈夫。絶対いけるから、絶対大丈夫。
もしグラウンドに立つ時にふと思い出したら、「絶対大丈夫」とひとこと言って打席に、マウンドに、立ってください。絶対、大丈夫だから。
この日、スワローズは打ってはサンタナの10号ソロホームラン、村上の32号スリーランホームラン、投げては先発奥川が7回被安打2無四球無失点の好投で13-0の快勝。
「絶対、大丈夫」の言葉を胸に後半戦を闘ったその後のチームは本当に"大丈夫"で、高津監督の話にもあった10連戦を含めた13試合で連続負けなしという破竹の快進撃を見せた末、最終的に2021年度ペナントレース、セントラルリーグの頂点に輝きます。
「大丈夫」はただの言葉でしかない
タイムカード/奥華子で「私」に「あなた」がかけてくれた「大丈夫だよ」、今年のスワローズを優勝へと導いた高津監督の「絶対大丈夫」
どちらも、それだけではただの言葉でしかありませんし、「大丈夫」の言葉だけで大丈夫なら、俺の人生だってもっと大丈夫になっているはずだ。
「大丈夫」という簡素な言葉が、言葉以上の意味や力を持つ時、そこには寄る辺のない状況や互いの関係性、信頼が浮揚します。
「タイムカード」で、周囲に取り残されている私の孤独をただ一言で癒すことができたのは「逼迫した状況」における「あなた」の「大丈夫だよ」だったからに他なりません。根拠や証左を超えた先にある、私を見てくれていたあなたの「大丈夫」だからこそ、代替のない言葉となって「私」の元に届いたのです。
高津監督の「絶対大丈夫」も、監督本人の普段からの立ち振る舞いや試合に臨む姿勢、双方向で結ばれた監督選手間の信頼関係を礎に、その力強さが立脚しています。
監督は選手を、選手は監督をいつも見ているからこそ、言葉に嘘がないことを既に知っているのです。
「何かあったら、僕が出ていくから」と言ってくれる人の「絶対大丈夫」、私が言われたら恐らくギャン泣きしています。(実際、今年「何か」があって高津監督が出ていったシーンがあるのですが、野球のルールから詳らかに解説する必要があるため割愛します。興味のある人は「ヤクルト 中日 誤審」で調べればすぐに見つかると思います)
karte.84「僕は大丈夫」に触れなければ嘘になる
https://mangacross.jp/comicsyabai/89
前述のように今年のヤクルトに狂っている人間が僕ヤバの最新話karte.84「僕は大丈夫」を読むと......?
山田杏奈≒高津臣吾
— おーじ (@o_ji666) 2021年11月16日
滅茶苦茶胡乱なことを言い出す。
胡乱であるし、こういった「自分の好きなもの同士を無理やり符合させる仕草」は楽しくもエゴイスティックになりがちなので程々にすべき、と自戒した上でなお二人の言葉には通底するものがあります。
山田の「大丈夫」は市川京太郎のこれまでを見てきた山田杏奈だからこそ選択された言葉であり、やはり前述の例に漏れずそこには信頼が浮かび上がります(監督→選手への信頼、山田→市川への信頼)
ただし、この「大丈夫に重ねられた信頼」を読み手に届ける、という点で僕ヤバのプロットが輪をかけて巧緻なのは『「頑張れ」では取り零してしまう想いを「大丈夫」は掬い上げる』まで言語化している点にあるのです。
「頑張れ」と「大丈夫」、それだけではただの言葉同士でしかない二つの何が違うのか。滅茶苦茶当たり前かつ頭の悪い言い方をすれば「大丈夫は(今ここで)頑張れとは言っていない」のです。
市川はこれまで、それこそ「カツカレーを食べるんじゃないかな」の頃から、山田の隣にいられる未来を、自分を願い、追い続け、頑張ってきました。
その努力を傍らでずっと見てきた山田本人が、窮地に立たされた市川に「頑張れ」とは言わず「大丈夫」と伝えることこそ、市川の積み重ねた「道程」と「現在」を肯定する信頼と優しさに他ならず、それは「現在」からの発起を促す「頑張れ」では掬い上げることのできない感情です。マジで美しいな......
私は「大丈夫」というただの言葉が誰が、誰に、いつ、どのように伝えるかで破格の重量を持つことがずっと大好きです。今年はフィクション、ノンフィクションの両方でそれを体験できる幸せを噛み締めています。
・おまけ
頑張れも、大丈夫も、両方言って欲しい時だってある。
二つとして同じもののない人と人との関係性が言葉を創る。
そして、ハニーストラップへ
実は、この記事を書く理由のもう半分はハニーストラップの話がしたかったからなんですね。私はずっと、いつだってハニストの話をしたかった お前と。
ハニーストラップは774inc所属のVチューバ―グループで、現在周防パトラ、西園寺メアリ、堰代ミコ、島村シャルロットの4人が所属しています。
ハニスト自体はあまり知らないけれど、周防パトラのASMRは知ってるというキモ人(んちゅ)も多いでしょう。まあ私はそんな浮付いた連中とは違いますが......
パトちゃんの今日は「〇〇の香りのアロマを炊いていくよ」の〇〇に対応する為に買ったアロマオイル見て pic.twitter.com/0n0XySbkZT
— おーじ (@o_ji666) 2020年6月21日
いや、今回は本当にASMRの話をしたいわけじゃなく、ちゃんと本記事の文脈に連なる話をします。
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ハニーストラップは2019年の5月まで、結成から約10ヵ月間、5人グループでした。蒼月エリという名前を聞いたことがあるでしょうか。
卒業から2年が経った2021年の今でさえ、蒼月エリの卒業配信よりも美しく、魂の震えるVTuberの卒業配信を私は知りません。
現在、YouTubeにはアーカイブの転載しか存在しない為、直接ここにURLを貼ることはしませんが、代わりに私が特に好きな部分を文字起こしします。
エリちゃん本当さ、手がかかる可愛い娘みたいだなって、最後までもうほんと......概要欄にてへぺろ♪とか書いてるし......たぶん一生懸命元気に振舞ってくれたんだなって思って、最後まで本当、もっと迷惑かけてくれて良かったんだけど......
あと、何か不安がある時にシャルと一緒に「パトラちゃんが大丈夫だよって言ってくれるから大丈夫だって安心する」って言うから、すごく嬉しくて。
これからエリちゃんの新しく進む道に、たぶんいっぱい困難が訪れたり、辛いことがすっごくあると思うんだけど......もう駄目って時にさ、パトラが隣で「大丈夫だよ」って言ってること、思い出してね。
(中略)
エリちゃん、大丈夫だよ。ずっとずっと、大好きだよ。
おしまい。
周防パトラ
繰り返しになりますが、私は「同じ言葉でも誰が、誰に、いつ、どのように伝えるかで重さも、色も、温かさも変わること、変えられること」をやる創作物が大好きです。
この配信を見た時、この言葉を聞いた時、歯に衣着せず言えば「VTuber、もういつ終わってもいいじゃん」とすら思いました。1ファンが"たった"と形容するには計り知れない10ヵ月間を彼女達はともに過ごし、現実で『「あなた」の”大丈夫だよ“で「わたし」はきっと大丈夫』まで辿り着いたのです。アガリだろ......いや俺の中ではなんですけど......
そんな周防パトラが作詞作曲し、蒼月エリが歌う最初で最後のソロ曲「蒼い蝶」はファンの間では作詞時点で蒼月エリの卒業や夢を周防パトラは知っていたのではないかと言われています。貼っておくので買ってください。アップルミュージックに入っている人は聴いてください。
「わたし」と「あなた」の数だけ、それぞれの「大丈夫だよ」をいつまでも。
おしまい。