おーじの覚書

忘れちまった事、忘れらんねぇ事

関西の方言と地元の方言の話

関東の人間が聞いて面食らう、日常でポロッと出る関西の方言不動の第一位は

シンプルに「なおす」だと思っている。

会社でもよく「これなおしといて」と言われる。

もう意味はわかるので、ただ淡々とそれを元あった場所に戻すだけだ。

しかし、内心では「なんだかおかしいな」と少し楽しくなっている自分が未だにいるのである。

 

突然、ウン十万はする精密機器などを「これなおしといて」とそよ風の如き軽さで言われることがある。

瞬間的に、自分がその精密機器の専門知識を擁した有能なリペアマンか何かだった気がしてくる。

ウン十万というその価値、機器構造の複雑さに対する「これなおしといて」という語気の軽さというアンバランスさが、私の”この道”における信頼度を演出してくれる。

「こいつに頼んでおけば安泰。こいつにとっては余裕の仕事」

 

そして、それを聞いた私はフフッと不敵に笑うわけだ。

「まかせてくださいよ」

自信に裏打ちされた力強くも短い応答の後、洗練された手際の良さで精密機器を箱に入れて、丁寧に元あった棚に戻す。

「ま、こんなもんかな」

額に汗ひとつ掻いていない。よどみのない作業だった。

 

と、勝手にこんな気分に浸りながら仕事をしている。とても楽しい。

どんな精密機器でもどんどん「なおす」からいつでも言ってくれという感じだ。

まあ、毎日毎日ことあるごとに「これなおしといて」と言われている人材がいたら、間違いなくそいつは出世しなさそうであるが。

 

関西の言葉といえばテレコにも思うところがある。

あべこべだとかという意味だが、こいつの一番強いところは言葉の響き自体のスマートさだ。

 「ここテレコになってるね」

この溢れ出る小慣れ感。この言葉もまた謎の職人っぽさがある。

明らかにアマではなくプロのソレだ。

テレコ・コーディネーターといった具合だ。

 

「これは間違なく…”テレコ”…やろなあ」

「この部分、便宜上だけでも”テレコ”としておくべきでしょうね」

「いっちょ”テレコ”いっとく?」

 

きっと関西人から見たらこいつアホちゃうかといった感想しかないだろうが、聞き慣れない耳障りはなぜか異様にかっこよく聞こえてしまう。

 

また、ここで私の地元である茨城県でいう「テレコ」

つまり茨城弁の「あべこべ」を見てみよう。

 

「おめぇシャツのボタンいっちくだっちくになってっぺよ」

 

いっちくだっちくである。

冷静に見て「おいお前いきなりどうした?」という感想しかない。

いっちくだっちくって。突然会話の中で音がハネすぎだろう。

雑なHIPHOP的押しつけが凄い。韻を踏むのをやめろ。

「いっちく」の時点で既に小ジャンプしているのに「だっちく」の追い討ちでさらに前ステップでラインを上げて来ているのが図々しい。

 

「テレコ」があべこべ界のミルコ・クロコップならば

「いっちくだっちく」はあべこべ界のボブ・サップだろう。

 

「テレコ」の圧倒的スマートさに対して、野獣ともいえる「いっちくだっちく」の無法さ。

やっていいことと悪いことの区別がついていなさそうである。

「テレコ」はとにかくリスクを抑えた立ち回りで、最低限のムーブのみを用いる暗殺術を得意とするが、

「いっちくだっちく」はいっちくのファーストブリットで敵のみぞおちを強襲し、だっちくのセカンドブリットで相手の顔面をボコボコにするバーサーカースタイルだ。

 

性格のまるで違う二人は対称的だが、いいコンビだと私は思う。

この二人の関係をしてまさに「テレコ」になっていると言えなくもない。