おーじの覚書

日々考えては霧散していくような何でもないことを覚え書き程度に。へヴィメタルと格ゲーを愛する社会人一年目

歌の話

菅原道真

「東風吹かば 匂いよ起こせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな」
という句が昔から好きだ。
この句は余りに私的風情厨ポイントが高すぎる。

菅原道真は努力と才の人で、それを武器に朝廷で地位を得た。
しかし、それを時の左大臣 藤原時平に嫉まれ、都から九州は大宰府へと左遷させられてしまう。

なんという悲劇のヒロインだろうか。

余裕で少女漫画の主人公など張れそうである。
この句はそんな道真公が大宰府へと出立する間際に、日ごろ愛した梅の花に向かって詠んだ句であると言われる。

 

私はこれよりここから遠く離れた西の地へと赴く。

ならば、そなたはその香りを東風に乗せて、どうか私の元まで届けて欲しい。

私が去った後でも、春はまた訪れるということをどうか忘れずに。

季節が巡る度、その美しい花びらを変わることなく咲かせてほしい。

 

自分で書いていて何だが正直、涙が出そうだ。
私の脳内再生では完全に櫻井孝宏が優しい声で読み上げているので、勝手に感動の拍車がアクセルを吹かしている。
菅原道真(CV:櫻井孝宏)である。

道真公の心情と言葉選び、全てが味わい深い。
よく晴れた空の下、慈しむような目で梅に語りかける公の姿が目に浮かぶ。
まさに長年連れ添った恋人へ、感謝と別れを告げるが如く。
連れて行く役人が少しイライラしながらその様子に「まだか」と問うて、
公が透き通るそよ風のような笑顔で「これはこれはすまない。参りましょう」と言っているような、そんな情景すらも浮かぶ。

というか日本人、対象を擬人化してナチュラルに話しかけ始めるの早過ぎである。
約1200年も前にこうして梅の花が擬人化されているのだからそりゃ戦艦も刀も放っておけば人の形を取るわな、といったところである。

だが、「想い注いだものには魂が宿る」という日本古来からの考え方は真に尊いものであると思う。
こうした歌からもその片鱗が見て取れるのは少し楽しい。


最終的に。

道真公は生涯都に帰ることはなく、大宰府でその生涯を終える。
しかし、「飛び梅伝説」として残るように、今も大宰府天満宮では都から一夜で彼の地へ飛来したと伝わる梅の花が早春の頃、その枝に爛漫の花弁をつける。
「香りを届けて欲しいと言ったら、なぜか本体が来てしまいました」
道真公(CV櫻井孝宏)もこれにはさぞ驚いたことだろう。
きっと想い堪らずに、東風(こち)に乗ってやってきたのだ。
否、この場合はきっと「東風(あい)に乗ってやってきた」と、

そう読むのが面白いのかもしれない。