おーじの覚書

忘れちまった事、忘れらんねぇ事

オタクの話②

先日、オタクの話を書いた。「涼宮ハルヒ」アニメ放送開始から10周年という節目に、彼女が私にとって一体何者であったのか、を今一度自らに問うという稚拙ながらも「いつか書かなければならなかった」系の非常に有意義な作業となった。

今回はその続きといった位置づけである。オタクの話は面倒で長いのだ。

 

さて、「涼宮ハルヒ」の話をしてしまったからにはもう後戻りはできないということだ。

こう成り果てては最後、もう一人絶対に避けては通れない人物がいる。

 

文学少女、眼鏡、無口

全ての萌え要素の…

止めておこう。ひねくれたオタクは簡単には流行に乗らないのだ。

彼女を説明するに足る言葉は昔からこれ一つと決まっている。

 

この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース

この仰々しい肩書こそ、長門有希という少女がその小さな身体に背負った大きな使命だった。

 

客観的に見て、長門有希というキャラクターの持つキャッチーさは凄まじい。

例えるならばHIT IN THE USAのサビくらいキャッチーだろうか。

先も述べたが、正直「記号的」ともいえる要素をこれでもかと詰め込んでいる。

眼鏡だし、文芸部だし、喋らないし、紫髪だし、宇宙人だし。

2017年現在で登場していたら埋もれていたのではないかと少し心配になるほどだ。

 

だが、私は長門有希という存在に本当に感謝している。

なぜなら彼女というキャラクターの存在が圧倒的に希薄であるからだ。

想像してほしい。

私は文芸部員で、部員は私と長門の二人だけだ。

二人は別々のクラスで、だいたい私の方が部室に来るのが遅い。

部室の前に立ち、ガチャリと扉を開ける。部屋の隅、パイプ椅子に腰かける文学少女

狭いはずの部室がやけに広く見える。

窓から差し込む夕日に照らされたオレンジがかった彼女の双眸がチラッとだけ私を見やる。しかしてすぐに、その視線は手元の本へと戻されるのだ。

 

「よっ」

いつも通りのぶっきらぼうな私の挨拶。例のごとく返事はない。

だが、ここで私の心を満たす感情はため息をともなう「安堵」だ。

部室に来て、ドアを開け、視界に長門を入れて、いつも通りの無表情を確かめる。確認作業。

毎日やっていることだ。ルーティンワークと言っていい。

しかし、実は私はこの淡々とした日々に言い表せない恐怖を抱いているのだ。

こうした毎日をこなしていると、いつか突然前触れもなく、ドアを開けたら長門はそこにおらず、空っぽの部室。次の日も、その次の日も彼女は現れずに私の前から永久に消えてしまう。そんな日が来る気がする、という無形の恐怖に苛まれている。

透き通るような現実感の無さ。そこにあり続けていることすら実は奇跡なのではないかと思わせる彼女の圧倒的な希薄さがそれを感じさせるのだ。

だから、ドアノブを握って回し開ける瞬間、実は毎回時が止まるかのような妙な緊張感を抱いているし、その結果変わらずそこにいる彼女の存在を確認できた時、やっと私は本当に安心した笑顔で彼女に声をかけることができるのだった。

よかった、今日もこの顔を見ることができた。無形の恐怖は杞憂だったなと、この瞬間だけは強くそう感じることができる。

 

一度、こうしてドアを開けた際に彼女が本当にいなかったことがある。

呼吸が止まりそうだった。冷たい汗が全身から噴き出した。

どうしよう、探すか?いやどこを探すというのか。

そういえば私は彼女の何も知らないではないか。何が好きなのかも、何が嫌いなのかも。

私は、毎日共に過ごした彼女の何一つを未だに知らないという事実に打ちひしがれる。

絶望がゆっくりと目の前を閉ざしていった。

 

しかし

 

「掃除当番」

 

か細い声を紡いで、無表情の少女が平然と、静かに、部室に入ってきた。

 

「あっ…ああ!なるほどなるほど!!」

素っ頓狂な声を上げてごまかす私は内心でとてつもなく安堵していたのを記憶している。

 

 

ここまでこうして彼女の希薄さについて話してきたが、最も恐ろしいのはこの段落が「想像してみて欲しい」から始まっていることだろう。いささか想像が長くなってしまったようだ。

 

つまり、何が言いたいか。

もう賢明な皆様ならば分かっているとは思うが、

 

長門は間違いなく儚げな美少女である。

そう、美少女である。重要なことだ。

儚げな美少女トーナメント「HAVO(ハボ)」でウィナーズから上がってきた塚本八雲と決勝を争うのは間違いなくルーザーズから這い上がって来た不撓不屈の長門有希であり、その決勝を見守る私はとても満足げな顔で彼女を讃えていることは想像に難くない。

 

 

私の理想の儚げな美少女のほとんど「アーキタイプ」といっていい彼女は、やはり私の人生とって非常に大切な存在であり、感謝してもしきれないのであった。

 

本当は、今回は長門有希の話は足がかり程度として、その「中の人」の話を長文で語ろうと思っていたのだが、思ったよりも長門の話だけでスペースを使いすぎてしまった。

よってこの話はもう少しだけ、「オタクの話③」へと続いていく。