おーじの覚書

忘れちまった事、忘れらんねぇ事

風情厨とかいうパワーワードで殴られた話

だいぶ前の話になる。

なので、詳細な事の起こりはほとんど覚えていない。

たしか旅行の計画を立てている時だったか。

自分が「静かな旅館で美しい景観を愉しみながら美味しい料理と酒を頂ければ良い」といったような提案をした際、唐突に「あんた風情厨なところあるよね」と認定された。

意味不明の新語だが発言者によると「風情あるシチュエーションが好きでそれに酔うところがある」といったニュアンスらしい。

私はこの発言に対し、こいつは悪鬼羅刹か何かの類か?と震えた。

つまりである。

私はその時、せっかくの旅行なのだからと思い、意識をして風情ある、雰囲気がいいと言い換えてもいいが、そういったシチュエーションを提案していたわけだ。

それに対して「お前風情厨やな~」と言われてみた時の事を想像してみて欲しい。

果たして、怒り以外の感情が残るだろうか?

「お前それなら家でお湯沸かして一平ちゃん食って氷結で乾杯でもいいか?」と言わざる負えないだろう。

きっとそう言ったならば経験上相手は「お前はいつも話が極端なんだよ」と言うに決まっているのだが、そう。風情なんてものは無くそうと思えば無尽蔵に無くせるのだ。

逆に風情を演出しようとすれば大概の人間は背伸びになる。

ましてや一介の大学生である。頑張って相手に喜んで欲しくてする精一杯の背伸びだ。可愛いものだろう。

それを一蹴する「風情厨」というワードの慈悲無き響きは私の心象風景を荒涼へと変えた。

 

それからというもの私は日々、風情厨というパワーワードの影に怯えることとなる。

会話の中で私の大好きな夏、夜、浴衣、旅館、花火、風鈴、灯篭、というようなパーツを紛れ込ませた瞬間、そこには風情厨認定が首をユラリともたげてくる。すぐそこで大きく口を開いて私が同じ轍を踏むのを今か今かと待ち構えている。その姿はさながら獲物を待つウツボカズラだ。

しかし、それを回避する手段すらも私は既に知っていた。決してやられているばかりではないのだ。その手で未来を勝ち取れ。風情厨認定されずに相手を絶対にがっかりさせない手段がそこにある。

 

今度ランドいかね?」

 

これである。風情の欠片もないかつ力強い。

風情を捨て、巨大なエンターテインメント性の傀儡へと身を窶す格好だ。

私が「風情厨」ならば敵もまた「テーマパーク厨」だったというわけだ。

風情厨VSテーマパーク厨の天下分け目の関ヶ原である。

キャラメルポップコーンの香りを纏った女子大生など全員まとめてプーさんのハニーハントにでもぶち込んでおけばよい。

シーとの二択を迫ることで的を絞らせない択の多さもまた魅力的だ。

しかしランドに行ったら行ったで問題はある。

 

「クソ楽しい」

これに尽きるだろう。

相手は百戦錬磨のテーマパーク界の絶対王者である。一介の大学生など片手でハッピーにさせられ、夜には満足感と心地よい疲労感を抱いてゲートを抜けさせられること必至だ。

舞浜駅までの道すがら、二人はあーだこーだと一日の素晴らしい思い出を語るのだ。

私が謳う風情などランドの持つその圧倒的なエンターテインメント性の前に粉々に砕かれることだろう。

 

それはそれとして。

 

私は自らが風情厨だということを恥じることはない。

先の駄文でも触れたが、日本の四季や情緒を愛でることは素晴らしいと思っているし、それを言葉にもしたい。シチュエーション先行でイベントを考える節が多々あるが、本当にそういった風流めいたものが好きなのだ。

 

ちなみに言質はとっていて風情厨認定委員会の会長も「風情厨かそうでないかで言えば風情厨の方が良い働きをすることもある」とのことだ。

 

いつかは完璧な風情を演出し、風情厨から風情王へのランクアップを認めてもらいたいと思っている。